痰がたまり、炎症が繰り返される仕組み。
気管支を縦に切ると
肺と気管支通常の気管支広がって痰がたまった気管支仕組みを簡略化した模式図です。実際の形や変化の程度には個人差があります。
健康な気管支では、粘液と細かな毛(線毛)が、ほこりや菌を外へ運びます。気管支が傷ついて広がると、この働きが低下します。痰が残ると菌が増えやすくなり、炎症で気管支がさらに傷つく、という循環が起こります。
- 痰を運ぶ力の低下
- 痰・菌がとどまる
- 炎症が続く
- 気管支が傷つく
広がった気管支を薬だけで元どおりに戻すことは難しくても、この循環に働きかけることはできます。画像の変化だけでなく、痰の量、息切れ、悪化を繰り返す頻度を確認し、生活を保つ治療を考えます。
国内の患者さんは、統計より多い可能性があります。
日本の健康保険データを用いた研究では、2021年度の気管支拡張症の有病率は人口10万人あたり約86人と報告されています。ただし、これは診断・保険データに基づく推計で、日本で気管支拡張がある方すべてを数えた数字ではありません。
「診断名で数える」か、「CTで調べる」かで変わります。
症状が少なく受診していない方や、肺MAC症などの診療中にCTで気管支拡張が見つかった方が、別の病名として記録されていなければ統計に十分反映されない可能性があります。実際の頻度はこの推計より高いことも考えられますが、その規模をこの数字だけで決めることはできません。
肺MAC症と重なる部分があります。
肺MAC症では気管支拡張を伴うことがありますが、すべてのMAC症が同じ病型ではありません。逆に、気管支拡張症にはMAC以外の感染後の変化や、免疫・アレルギーの病気などによるものもあります。画像上の気管支の広がりと、症状を伴う気管支拡張症としての診断も、同じ意味とは限りません。
したがって、肺MAC症の患者数だけから気管支拡張症全体の人数を単純に逆算することはできません。調査年、年齢、診断基準、合併を数える方法によって数字が変わるため、国内の実態には今後の調査が必要です。高齢の方や女性で多くみられることも報告されています。
「有病率」はある時期に病気を持つ方の割合、「罹患率」は一定期間に新たに病気になった方の割合です。NTMページに示した年間の罹患率とは直接比較できません。
出典:日本呼吸器学会(2025年9月)、国内のNTM症・気管支拡張症の診療データ研究。保険病名に十分反映されない可能性については、データの性質を踏まえた解釈です。
原因は一つではありません。
過去の感染や肺NTM症
肺炎や結核の後に残る気道の傷み、肺NTM症などが関係します。NTMが気管支を傷つける場合と、もともとの気管支拡張がNTM感染の背景になる場合があります。
気道・アレルギーの病気
慢性副鼻腔炎を伴う病気、喘息、COPD、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)などを確認します。ABPAはカビに対する強いアレルギー反応が関係する病気です。
免疫や全身の病気
関節リウマチ・シェーグレン病などの自己免疫疾患、免疫グロブリンの不足、線毛の生まれつきの働きの異常が背景にあることもあります。
原因が分からない場合
必要な検査をしても、原因を一つに特定できない方がいます。原因が不明でも、痰の管理や悪化の予防を続けることが大切です。
いつもの痰・せきとの違いに気づく。
長く続くせき、黄色や緑色の痰、息切れ、疲れやすさ、血痰などがみられます。一方、症状が少なく画像検査で見つかることもあります。
「増悪」は、普段より症状が強くなること。
痰が増える・色が濃くなる、せきや息切れが増す、発熱や強いだるさがあるときは、感染などによる増悪を考えます。いつから、何が変わったかを記録し、早めにご相談ください。
多量の血を吐く、急に呼吸が苦しくなる、意識がおかしい場合は119番など救急対応が必要です。少量でも血痰を繰り返すときは、予定の診察日を待たずご相談ください。
CTと痰の検査で、状態と原因を整理。
- 胸部CT
- 気管支が広がっている場所、壁の厚み、痰の詰まりなどを確認します。画像だけで重症度を決めず、症状や経過と照らし合わせます。
- 痰の培養検査
- 一般細菌に加え、必要な抗酸菌検査でNTMなどを調べます。緑膿菌の有無や、薬の効き方も治療方針に関係します。
- 呼吸機能・血液検査
- 息を吐く力や炎症を確認します。免疫グロブリンやアレルギーの検査などで、治療できる背景の病気も探します。
当院では呼吸器専門医の診察と胸部CTなどを通じて状態を評価し、より専門的な検査や治療が必要な場合は呼吸器センターなどへご紹介します。
呼吸器の検査を詳しく見る →治療の柱は、排痰・感染対策・原因の治療。
痰を出しやすくする
呼吸法、ハッフィング(息を「ハッ」と吐いて痰を動かす方法)、姿勢の工夫などを、医療者と練習します。必要に応じて去痰薬や器具も検討します。苦しくなるまで強くせき込まず、自分に合う方法を身につけます。
増悪時の感染を治療する
痰の検査や過去の菌の情報を参考に抗菌薬を選びます。重い増悪では点滴や入院が必要なこともあります。普段と同じ薬が毎回適切とは限らず、残っている抗菌薬を自己判断で使うことは避けましょう。
繰り返す悪化を減らす
増悪を繰り返す方では、マクロライド系薬の少量長期療法などを検討します。全員に必要な治療ではなく、心電図・聴力・耐性菌などにも配慮します。開始前にはNTMの有無を確認することが大切です。
背景の病気と体力を整える
喘息、ABPA、免疫の病気などがあれば、その治療も行います。食事と活動で体重・筋力を保ち、必要に応じて呼吸リハビリを組み合わせます。禁煙や、年齢・持病に応じた予防接種も相談します。
NTMを合併している場合の注意
肺MAC症などにマクロライド系薬だけを使うと、重要な薬が効かなくなるおそれがあります。気管支拡張症の長期治療と、NTMに対する多剤併用治療は区別して考えます。
吸入ステロイドは気管支拡張症だけを理由に一律に使用する薬ではありません。喘息などを伴う場合に適応を判断します。緑膿菌が持続して検出される場合の治療、止まりにくい喀血への血管塞栓術、一部に限られた病変の手術などは、専門施設と相談します。
新しい治療の展開:DPP-1阻害薬。
DPP-1は、白血球の一つである好中球の中で、タンパク質を分解する酵素を働ける状態にする役割を担います。炎症が強く続くと、これらの酵素が気管支の組織まで傷つけることがあります。DPP-1阻害薬は、その活性化を抑えて炎症による傷みを減らすことを目指す飲み薬です。
ブレンソカチブの研究で分かってきたこと
第3相ASPEN試験では、52週間の治療でプラセボ群より増悪が少なくなりました。25mg群では呼吸機能の低下を抑える結果も示されました。ただし、すべての人に同じ効果があるわけではなく、広がった気管支を元に戻す薬でもありません。
国内の状況と、使用を検討する際の注意
ブレンソカチブは、2026年8月に日本で非嚢胞性線維症性気管支拡張症に対する承認が公表されました。増悪歴や痰の症状、菌の定着状況などを踏まえ、増悪を繰り返すリスクのある方への使用を検討する薬です。
皮膚の変化などの副作用や、感染症の状態を確認しながら使います。NTM合併例への適用には慎重な判断が必要です。承認と、実際の発売・保険適用・医療機関での採用は別であり、当院での処方開始を案内するものではありません。
新しい治療が加わっても、排痰や感染時の対応は引き続き大切です。今後は、どの患者さんに利益が大きいか、長く使用した場合の効果と安全性などの情報が蓄積されていきます。
2026年10月2日確認。PMDAの承認審査情報およびASPEN試験を参照。
よくある質問
家族にうつりますか?
気管支が広がっている状態そのものが人にうつることはありません。ただし、原因や同時に起きている感染症によって必要な対策は異なります。
症状が軽いときも通院は必要ですか?
普段の状態を把握しておくと、悪化に気づきやすくなります。痰・血痰・息切れ・体重の変化を伝え、検査と通院の間隔を相談してください。
治療で気管支の広がりは元に戻りますか?
広がった構造を完全に戻すことは難しいため、痰を出しやすくし、感染や増悪を減らして生活を保つことを目標にします。
Your Visit
診察・検査の流れ
- 01
症状・増悪歴を伺う
痰・血痰・息切れ、抗菌薬の使用歴、過去の検査を確認。
- 02
CT・痰などで評価
気管支の変化、原因菌、背景となる病気を調べる。
- 03
治療と日々のケアを共有
排痰、薬、悪化したときの連絡方法を相談。
- 04
症状と検査を継続確認
効果・副作用を評価し、必要時は専門施設と連携。





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