NTM Lung Disease

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)

「菌が出た」その先を、画像と経過で丁寧に考える。

健診のCTで小さな影を指摘された、せきや痰が長く続く、痰の検査で「MAC菌」と言われた。肺NTM症は、結核菌などとは異なる非結核性抗酸菌によって起こる肺の病気です。診断された方が全員すぐに同じ薬を始めるわけではありません。菌の種類、症状、画像の変化、治療の負担を整理し、ご本人と相談しながら方針を決めます。

呼吸器内科の受診案内
肺NTM症で肺に変化が生じることを表すイメージ。病変の位置や広がりは人により異なります。
理解を助けるための概念図

NTMとMACは、どう違うのですか?

NTMは土、水、ほこりなどの環境中に存在する抗酸菌の総称です。その中の一群がMACで、肺MAC症は肺NTM症の代表的な病型です。ほかにもカンサシ菌やアブセッサス菌などがあり、菌の種類によって治療薬や経過が異なります。検査で見つかった菌の名前を確認することが重要です。

環境中の菌を吸い込む機会はありますが、触れた人が全員発病するわけではありません。気管支拡張症など肺の状態、体質、免疫の働きなどが関係します。中高年の女性だけの病気ではなく、男性や若い方にも起こります。年齢や体格だけで判断しないようにしましょう。

日本では、どのくらい多い病気ですか?

肺NTM症は、日本で増加が報告されている慢性の呼吸器感染症です。全国調査では、2014年の年間の新しい患者数(罹患率)は人口10万人あたり14.7人と推定され、2007年調査の約2.6倍でした。

国内の罹患率の推計14.7人/10万人・年

2014年の全国調査。現在治療中の方をすべて数えた「有病率」とは異なります。

別の検査データを用いた研究では、2017年の罹患率は人口10万人あたり19.2人と推計されています。調査方法が異なるため、二つの数字をそのまま比較して増加率を計算することはできません。また、これらは調査した年の推計で、現在の患者数を直接示すものではありません。

国内ではMACが原因菌の多くを占めます。中高年の女性で目立ちますが、男性にも起こり、気管支拡張症、COPD、過去の肺の病気などを伴う場合もあります。地域によって菌の分布にも違いがあり、菌の名前まで確かめることが診療に役立ちます。

出典:全国調査・検査データ研究・国立健康危機管理研究機構。

菌の種類で、治療の考え方が変わります。

MAC

肺MAC症

主にアビウム菌(M. avium)やイントラセルラーレ菌(M. intracellulare)による病気です。気管支の広がりと小さな粒状の影が目立つ型や、肺に空洞ができる型があります。同じMACでも、進み方や治療の必要性は一人ひとり異なります。

M. kansasii

肺カンサシ症

肺に空洞をつくり、画像が結核に似ることがあります。薬が効く菌かを確認し、リファンピシンを軸とした複数の薬で治療します。MACとは薬の組み合わせが異なり、適切な治療で改善を期待できる病型です。

M. abscessus

肺アブセッサス症

薬が効きにくいことがあり、専門施設との連携が特に大切です。アブセッサス・マシリエンセ・ボレティの亜種に分かれ、同じ名前の菌でもマクロライド系薬の効き方に差があります。亜種と薬剤感受性を調べて治療を組み立てます。

このほかの菌もあります。菌の検出だけでなく、症状・画像・繰り返した培養結果を合わせて病気の原因か判断します。

結核と同じように、家族へうつりますか?

肺MAC症などの一般的な肺NTM症は、通常の生活で人から人へうつる病気とは考えられていません。診断されたことだけを理由に、家族と食器を分けたり一律に隔離したりする必要は通常ありません。ただし、結核とは区別する必要があり、検査結果が確定するまでは医療機関の案内に従ってください。

特定の菌や基礎疾患、医療環境では別の感染対策が必要になる場合があります。「抗酸菌が出た」という説明だけでは、結核かNTMか、治療が必要かは分かりません。不安なときは検査結果の名称と、今後の確認事項を医師に尋ねてください。

症状が少ない場合もあります

せき、痰、血痰、疲れやすさ、微熱、寝汗、食欲低下、体重減少などがみられます。目立った症状がなく、健診の画像で見つかることもあります。ゆっくり進む方がいる一方、空洞を伴うなど進行に注意が必要な場合もあり、「ゆっくりした病気だから放置してよい」とは言えません。

症状を記録するときは、痰の量や血が混じる頻度、食事量、体重、歩いたときの息切れなどを見ます。多量の喀血、急な強い息苦しさ、意識の変化があるときは救急対応が必要です。少量の血痰でも繰り返す場合は、予定の受診日を待たずご相談ください。

診断は、画像と菌の検査を組み合わせます

胸部CTなどで気管支の広がり、小さな結節、空洞などを確認し、症状や他の病気の可能性と照らし合わせます。痰の培養では、通常は別々に採取した検体で同じ菌が繰り返し確認されるかなどを調べます。一度菌が検出されただけでは、環境からの混入や一時的な検出との区別が難しい場合があります。

痰が出にくいときには、専門施設で気管支鏡検査を検討することがあります。菌の培養や同定には時間がかかるため、検査直後にすべてが確定するわけではありません。過去の画像や以前の培養結果を取り寄せて比較することも、診断と方針決定に役立ちます。

最近の診断の動きと、変わらない基本

肺NTM症では、一つの検査結果だけで診断や治療開始を決めません。血液の抗体検査が参考になる場合もありますが、対象となる菌や検査の限界を踏まえ、症状・画像・培養結果を総合して判断します。

新しい検査や薬の話題を見ると、すぐに治療を変えるべきか迷うかもしれません。大切なのは、ご自身の菌の種類と病状に適した選択かどうかです。研究段階の情報や海外の治療を、そのまま国内で受けられる治療と考えず、現在の方針との違いを主治医に確認しましょう。

治療を始める場合と、経過をみる場合

症状が軽く画像の変化が少ない場合などには、定期的な診察・画像・痰の検査で経過をみることがあります。経過観察は放置ではなく、進行の兆候と治療の利益・負担を見極めるための方針です。空洞、菌の量、症状の悪化などは、治療を積極的に考える要素になります。

肺MAC症では複数の抗菌薬を組み合わせることが基本です。マクロライド系薬が効く菌では、培養陰性化後も原則として少なくとも12か月の治療継続が勧められますが、実際の期間や組合せは菌と病状によって異なります。飲み忘れや副作用で続けにくいときは、自己判断で一部の薬だけを残さず、処方医へ相談してください。

治療薬には、どのような役割がありますか?

肺MAC症:複数の飲み薬を組み合わせる

標準的には、クラリスロマイシンまたはアジスロマイシンなどのマクロライド系薬に、エタンブトール、リファンピシンを組み合わせます。菌の増殖を複数の方向から抑え、薬が効かない「耐性菌」が生じるのを防ぐためです。相互作用や副作用に応じて、組み合わせを調整する場合があります。

「症状が軽くなった」だけでは、終了を決めません。

痰の培養で菌が確認されなくなることを「培養陰性化」といいます。薬の効く肺MAC症では、陰性化後も原則として少なくとも12か月続けることが目安です。治療開始から12か月、という意味ではありません。症状・画像・培養を見ながら終了時期を判断します。

空洞がある場合や、進行した場合

飲み薬に加え、アミカシンなどの注射薬を検討することがあります。毎日か週に数回かといった投与方法も、病型・重症度・薬の効き方で変わります。ご自身で回数を減らしたり、飲みやすい薬だけを残したりしないでください。

肺カンサシ症・肺アブセッサス症

肺カンサシ症では、リファンピシン、エタンブトールに、イソニアジドまたはマクロライド系薬などを組み合わせます。肺アブセッサス症では、感受性検査を参考に、点滴薬と飲み薬を含む複数の薬を選びます。導入時に入院が必要な場合もあり、専門施設で期間と継続方法を検討します。

薬の名称は代表例です。菌の種類、腎臓・肝臓の状態、併用薬などで処方は変わります。

長期治療では、副作用の確認も大切です

治療中は血液検査に加えて、使用する薬に応じて視力や色の見え方、聴力、心電図などを確認します。見え方の変化、耳鳴り、強い吐き気、発疹などがあれば早めに連絡してください。他の薬との相互作用もあるため、受診先が変わったときも薬の一覧を共有します。

追加の吸入治療:ALIS

アミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS)は、抗菌薬を吸入で肺へ届ける薬です。多剤併用療法を6か月以上続けても菌が残る難治性の肺MAC症など、適応を満たす場合に専門施設で追加を検討します。最初からすべての患者さんに使う薬ではなく、他の抗菌薬と併用します。

声がかれる、せきが増える、息苦しい、血痰が出るなどの変化に注意し、聴力や腎機能も確認します。吸入器の扱いと、症状が出たときの連絡方法を事前に共有します。

薬で十分に抑えられず、病変が一部に限られる場合や喀血を繰り返す場合には、手術などを専門施設で検討することがあります。肺の働きや治療の負担を含めた判断が必要です。

暮らしを保ちながら、長く付き合うために

体重を保つ食事、体力に合う活動、禁煙、痰を出しやすくする方法なども相談します。環境中の菌を完全になくすことは難しいため、過度な消毒や生活の制限だけに頼らないことが大切です。土ぼこりや水のしぶきなどの曝露を減らす工夫は、生活とのバランスを考えて確認しましょう。

治療が終わった後も、再燃や新しい感染が起こることがあります。症状が落ち着いても、医師と決めた間隔で経過を確認してください。初診では過去のCT画像、菌の検査結果、薬の履歴をご持参いただくと、同じ検査の重複を減らし、経過を整理しやすくなります。

よくある質問

薬を始めないと言われました。大丈夫ですか?

治療の必要性は進行の程度と薬の負担を比較して決めます。次の検査時期と、早めに連絡すべき症状を確認し、経過をみる計画を共有してください。

家のお風呂が原因だったのでしょうか?

NTMは身近な環境に広く存在し、個人の感染源を特定できないことが多くあります。清潔にしていなかったから発病した、という病気ではありません。

Your Visit

診察・検査の流れ

  1. 01

    経過・過去の画像を確認

    せき・痰・体重の変化、以前のCT画像、抗菌薬の使用歴を整理します。

  2. 02

    菌の種類と病状を調べる

    胸部CTと痰の検査などを組み合わせ、菌の同定や薬の効き方を確認します。

  3. 03

    経過観察か治療かを相談

    進行の可能性と治療の負担を共有し、必要時は専門施設と連携します。

  4. 04

    培養・画像・副作用を確認

    症状だけでなく検査の推移をみて、治療中も終了後も経過を確認します。

参考情報・医学情報の確認日:2026年10月2日
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